国家賠償法二条一項は「道路・河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と規定している。右の「公の営造物」とは、具体的にどのようなものを指すかが問題となる。例えば、国または公共団体が病院をつくり、ベッドを設けて医者に患者の治療をさせる場合、この病院の建物とかベッドといった物的設備を公物といい、これを通じて行われる事業(治療)に着目した場合、これを公企業といい、更にその中の人に着目した場合、これを公務員といっている。学問上は、右の公物および公務員の総合体を指して公の営造物といっている。したがって、営造物と公物とは異なる。国家賠償法二条の「公の営造物」の解釈については、公務員の人的問題については国家賠償法一条で処理されているので、二条の会の営造物は、道路、河川など物的設備を指し、公物の概念に当たる。

 しかし、この公物という語も、実定法上の用語ではなく学問上の概念である。この公物はその併用される公の目的からみた場合、①公共用物
(直接、一般公衆の共同使用に供せられるもので道路・公園・河川・港湾など)と、②公用物(国または公共団体自身の使用に供せられるもので、官公署の建物、国公立学校の建物、職員の官舎など)に分けることができる。このような公物はすべて国家賠償法二条一項の「公の営造物」に当たると解してよい。裁判所も、警察署の自動車、国が公用に供するために借りた自動車、刑務所工場の脱水機、公立小学校のプール周辺の金網のフェンスなどは、この「公の営造物」に入るとしている。公の営造物の設置・管理の瑕疵――国家賠償法二条は一条と異なり、無過失責任の原則に依拠している。したがって、国民に対し損害を与えたことが法令に違反していなくとも、また公の営造物の設置・管理の安全性を欠くに至る原因がなくとも、また管理者の過失が存在しなくとも損害賠償をしなくてはならないことを意味する。公の営造物の設置・管理に瑕疵が存在する場合(この瑕疵のあることについての挙証責任は原告、〈被害者〉にある)、例えば、道路に大きな穴があいていた場合には、管理者はこれを補修して、道路の安全性を確保する責任がある。もしこれをしない場合は管理の瑕疵に当たるし、また、道路に石が落ちてくる危険があるような場合に、それを防護する施設が不十分な道路であれば設置の瑕疵に当たるであろう。したがって、通説や最高裁の判例は、公の営造物の設置・管理の瑕疵とは、営造物が通常有するべき安全性を欠いている状態を意味するとしている(最判昭和四五・八・二〇)

 また、この「公の営造物の設置または管理の瑕疵」の意義については、主観説、客観説、折衷説がある。客観説は、客観的に営造物の安全性の欠如が営造物に内在する物的瑕疵または営造物自体を設置し管理する行為によるか否かにより決すると主張する。これに対し、主観説は、営造物を安全良好な状態に保つべき作為または不作為義務を課せられている管理者がその義務に反することをいうと主張する。最高裁は、客観説に立っている。なお河川の管理について大東水害訴訟に関し最高裁は、①道路などの管理と河川の管理とは異なること、②河川は本来洪水などの自然原因による災害をもたらす危険性を内包していること、などを理由に、河川管理についての損害賠償を否認している。求償権――国家賠償法一条に基づく国または公共団体の賠償責任の性格については、公務員の責任に代わって負う責任、つまり代位責任の一種と考えられているので、被害者は国または公共団体に対してのみ賠償を請求し得る。したがって、国または公共団体が賠償した場合には、国または公共団体はその公務員に対して求償権を有する。ただ、軽過失についても
国が公務員に弁償させることは、政策的にみて行政事務の運営・執行を停滞させる危険があるので、求償権は公務員の故意・重過失に限って行使することができる(国賠法一条二項)。また、国家賠償法二条二項は、「他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対し求償権を有する」と規定する。「損害の原因について責に任ずべき者」というのは、営造物の設置または管理の瑕疵を生ぜしめた者である。

 

管理権者と経費負担者――どの行政主体が損害賠償責任を負担すべきかについては、公務員の選任監督者(管理権者)と俸給給与などの支払者(経費負担者)とが異なっているときは、被害者はそのいずれに対しても損害賠償請求を有し(国賠法三条一項)、そうして損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任がある者に対し求償権を有する(同三条二項)。これは、賠償請求権行使の相手を誤ったために権利の実現を妨げられることのないよう配慮したものである。